Labo_No.551
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進行した認知症の人には使用できない新薬の登場が早期受診のきっかけとなる可能性も州各地の235施設でおこなわれた「第三相臨床試験」(治験の最終段階)で証明されています。この治験では、脳内にアミロイドβの蓄積が確認されたMCI(軽度認知障害)と軽度アルツハイマー型認知症の1795人を対象に、レカネマブを投与するグループと偽薬を投与するグループに分けて治療効果を検証しました。2週間に1回投与し、ところ、レカネマブを投与したグループは偽薬のグループに比べて27%、症状の悪化を抑制できたのです。こうした治験結果に基づいて、レカネマブが承認されたわけですが、実際に使用するためには、さまざまな条件があります。まず対象となるのは、MCIもしくは軽度アルツハイマー型認知症の人です。MCIとは認知症の一歩手前の段階で、生活に多少支障は出ているけれど、工夫をすれば1人で生活できるといった状態です。さらにアミロイドPET検査や脳脊髄液検査によりアミロイドβの蓄積が認められた人です。中等度以上に進行したアルツハイマー病の人には、効果が確認されていません。また、MCIや軽度認知症であってもアミロイドβの蓄積が認められない人は対象外です。さらに、MRI検査で脳内に出血性の病変が見つかった人は副作用のリスクが高い可能性があるため、対象から外れます。臨床試験の対象は65~80歳くらいの人が多く、それより若い人、もしくは高齢の人はデータが多くありません。特に高齢者には慎重に投与する必要があります。副作用には脳の浮腫や出血があります。臨床試験では、12・6%の人に脳浮腫、17・3%の人に脳内出血が確認されました。また、レカネマブは抗体製剤のため、特に初回の点滴後には、重いアレルギー症状「アナフィラキシー」や発熱、寒気などの症状が出ることもあります。こうしたことから、レカネマブを使用した治療を実施するには、アミロイドβの蓄積を調べる検査ができる、正しく診断し、フォローアップできるといったことが必要となるため、限られた医療機関での実施となります。レカネマブは2週間に1回、点滴投与します。点滴にかかる時間は、1時間程度で、治療期間は原則1年半です。認知症と診断された人は、一般的に2~3カ月に1回程度通院しますが、レカネマブを使用する場合は通院頻度が高くなります。このためレカネマブの対象に当てはまったとしても、実際に使用するには、通院しやすい場所にレカネマブを使った治療ができる病院があるかどうかということも、条件の1つとなります。レカネマブは公的医療保険が適用され、患者1人あたりの治療費は年間約298万円、自己負担額はその1~2割になりますが、高額療養費制度により、さらに抑えられます。は年間で14万4千円となります。レカネマブが使用できるようになったことは、認知症治療において歴史に刻まれるできごとではありますが、有効性や副作用、コストの面など課題は多く残っています。世界ではこうした課題を解消できるような新薬の開発が引き続き進められています。「認知症は治らない病気」というイメージを抱いている人は多いかもしれません。実際に治療によって進行を遅らせることはできても、進行を止めることはできませんでした。このため、もの忘れなどが気になり始めても、受診につながりにくいという現状がありました。しかし、進行を抑制する可能性がある薬が存在するのであれば、早期発見、早期治療のためにも受診しようという意識が生まれるかもしれません。レカネマブは、人々の行動変容に影響を及ぼす可能性がある薬ともいえるのです。アルツハイマー型認知症その他前頭側頭型認知症、アルコール関連障害による認知症などによるものレビー小体型認知症・パーキンソン病による認知症血管性認知症13■ LABO – 2024.12★参考資料厚生労働省「アルツハイマー病の新しい治療薬について」、厚生労働省「最適使用推進ガイドライン レカネマブ(遺伝子組換え)」、厚生労働科学研究「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」18カ月後の認知機能の変化を比べた70歳以上の一般所得層の場合、上限8.6%4.3%19.5%67.6%図表2 認知症の原因となる疾患Medical Trendメディカル・トレンド

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