Labo_No.548
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令和5年度第24回一般公募エッセイ登彩(34歳/東京都)「検査がくれたもの」入賞作品紹介努力賞朝起きるとまず子供部屋へ行く。眠っている7歳長男の顔を観察し、ふくらはぎをはじめとした全身を触診する。むくんでいる所がないか、熱を帯びている所がないか、あの病気の前兆が出ていないか。異常が見られなくても、朝の検査を終えるまでは安心できない。いつの間にか目覚めた彼から、「ママ、トイレ!」と呼びかけられると、私はすべてを中断し、一緒にトイレへ向かう。それまで化粧をしていたり、4歳の長女の髪を結っていたり、2歳の次女のオムツを替えていたとしても。そんなものは後でどうにでもなる。でも朝一番の尿検査を怠ると、どうにもならなくなってしまう。り、小さな検査紙を浸し、色の変化を待つ。黄色から緑色に変化すると陽性で、病気の再発を意味する。彼が4年前に発症した原因不明の難病、小児ネフローゼ症候群だ。発症率は小児1000人に1人で、未だかつて同じ病気を抱えているご家族には会ったことがない。今に至るまで、長男は約1か月に1度のペースで再発を繰り返している。再発の度合いが少なければ、毎日飲んでいる薬の量を増やすことで、数日後には陰性化する。今でこそ尿検査は習慣化され、陽性でも薬の量を調節することで大事には至っていない。トイレで彼の尿をコップに取しかし正直に白状すると、数年前まで毎日の尿検査を煩わしく感じて、やらない日もあった。すると再発に気づけず、薬の量を増やすことを怠った結果、彼は5週間も入院する羽目になった。わが家は共働きなので、入院となると仕事の都合をつけるのが大変だ。それ以上に、大量の投薬による副作用で、躁うつ病や不眠に苦しむ長男を見ることは心が痛んだ。入院を防ぐためには、早期に陽性であることを感知し、家で与える薬の量を増やす必要がある。これには尿検査が必要不可欠なのだ。だから、私の眉毛が半分しか描かれていなくても、リビングで牛乳が零れていても、必ず検査を優先させる。日々の小さな積み重ねを怠ることで大事に至ることは、身をもって知らされてきた。昔は面倒くさいと感じていた検査も今では慣れ、それほど手間に思わない。何より尿検査は、陰性のときだけでなく、陽性だとしても「早期に対応できた。できることはやった」という、1日分の安心感をもたらしてくれる。他にも、尿検査には思わぬ効用があった。長男と2人きりで過ごす、静かな時間だ。採尿が終われば、彼はトイレを出て行けるはずが、そのまま便座に座っていることが多い。足をぶらぶらさせながら、「僕、昨日変な夢を見たんだ」や「ねえ、今日の夜ご飯はハンバーグにしてよ」と言う。いつもは小学生のお兄ちゃんとして過ごしている彼の、子供らしい一面を見ることができる。3人の育児と仕事で手一杯で、いつも時間がない私にとっても、癒しのひとときになっている。これからも1日分の安心と、長男との時間をくれる尿検査を、続けていこうと思う。尿検査がくれたもの11■ LABO – 2024.09

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