Labo_No.547
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汗を大量にかく部位によって発症の時期に違いがある背景に病気がある場合もょうせきたかんしょうきかたかんしょう私たちの体は、暑いときや運動時に体温が上がると、汗を出すことで皮膚表面を冷やし、体温を下げます。体温が上昇すると、脳の視床下部という部位から全身の皮膚にある汗腺に汗を出すように指令が出て、発汗するという仕組みです。汗をかけないと体の中の熱を外に逃がすことができず、熱中症の危険が高まります。つまり、汗を出すことは、健康を維持するために重要なことです。しかし暑くもないのに日常生活に支障が出るほど大量の汗が出る場合があり、「多汗症」と呼ばれます。約6万人を対象とした調査(2020年)では、1割の人に多汗症がみられました(「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改定版」より)。汗は暑いときや運動したときに体温調節のために出る「温熱性発汗」と緊張したとき、驚いたときなど精神的な刺激によって出る「精神性発汗」があります。大量の汗が出る部位として多いのが、手のひらや足のうら、わきの下、頭、顔です。部位によって、発症の時期や症状などに次のような特徴があります。【手のひらや足のうら(掌し蹠多汗症※手のひらは手掌多汗症)】生まれつきの体質で、幼稚園や小学校などの集団生活を送るようになってから、自覚しやすいという特徴があります。精神性発汗だけで、温熱性発汗はありません。「スマートフォンの画面に触れても汗で反応しにくい」「折り紙などをすると紙が湿る」といった症状に悩まされます。【わきの下(腋え窩多汗症)】思春期に発症、自覚しやすく、精神性発汗と温熱性発汗、両方に関わります。「汗ジミが気になって着たい服を着られない」「電車のつり革をつかむなど、腕を上げる動作をしにくい」といった症状に悩まされます。【頭・顔(頭部・顔面多汗症)】成人を迎える前後に発症しやすく、精神性発汗と温熱性発汗のほか、味覚性発汗(トウガラシが含まれる辛い食品を食べたときの発汗)に関わります。「髪の毛がつねに濡れている」「側頭部、後頭部、ひたいから流れ落ちるほどの汗をかく」といった症状に悩まされます。多汗症は明らかな原因がある「続発性多汗症」と明らかな原因がない「原発性多汗症」に分けられます。続発性多汗症の原因には、薬剤性、循環器疾患、がん、感染症、内分泌・代謝疾患、末梢神経障害などがあります。大人になって突然発症した場合、左右どちらかだけに症状が出る場合、寝汗が大量に出るといった場合は、こうした病気が背景にある可能性が高くなります。一方、明らかな原因がない原発性多汗症は、健康上に問題があるわけではないので、本人が気にしていなければまったく問題はありません。しかし気にしている場合、対人関係や社会活動に影響を及ぼす危険性があります。例えば、汗に対してネガティブなイメージがあると、それを隠したいという思いが強くなり、人とコミュニケーションをとるのを避けるようになります。汗が気になって自分の能力を最大限に発揮できず、自己肯定感が下がったり、不安感が強くなったりすることもあります。さらに職業の選択にも制限が出て、制服がある仕事、手を使う仕事、例えば医療や美容関係の仕事などは、諦めてしまうこともあるといわれています。こうした影響が出ることが明らか12 がんや感染症など2024.08 – LABO ■日常生活に支障が出るほど、大量の汗が出る「多汗症」。多汗症であっても健康上の問題はないことから、治療方法は限られていましたが、近年は多汗症が社会活動や対人関係に影響を及ぼすことなどが認められ、健康保険が適用される薬も増えてきました。多汗症の診断基準や治療の対象となる人、治療方法について紹介します。「多汗症」の治療薬が続々と保険適用に。対象となる人や治療効果は?Medical Trendメディカル・トレンド

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