Labo_No.545
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幼稚園の七夕の短冊。初めての願い事で「メロンパンになる」と断言し、母を困惑させた4歳児は、30歳で医師になり、いまや45歳。お陰様で元気です。そして、今が一番幸せです。小さかった私は「パン」が大好きでした。パンそのものが幸せの象徴でした。大きくなると、自ら、せっせと生地をこね、焼き上げるのが趣味になりました。小麦粉に塗れ、いつか、メロンパンになれる日が本当にくるのかもしれないと思われました。一方、走ることも大好き。好きなことにだけのめり込み、距離が取りづらくなるのが強みでも弱みでもありました。注意が逸れるのも特性でした。ある秋晴れの休日。布団をパタパタと干し、朝食にパンをいただき、草の多い街道をトコトコ走っていくと、ビール工場へ誘う看板を発見。脇道をそれて、ビールの試飲に紛れ込みました。悦に入って、再びトコトコ。続いては、パン屋さんの香りに誘われ、昼食にチーズたっぷり、クワトロフロマッジのピザパンをムシャムシャ。その美味たるや、鮮明に記憶しています。美味しくて穏やかな休日でした。コ。身体が痒い、喉も痒い、何でしょうこの感じ?? 四肢体幹に蕁麻疹、浮腫んで、咳、お腹が絞られ、呼吸が……。「くるし……い?? だ! でき立てのビールをいただき、余韻に浸りつつ、しばしトコト何!? とにかく、帰らなきゃ」医学部に進学する前の出来事。『食物依存性運動誘発アナフィラキシー』だなんて、知らぬが仏。這う這うの体でしたが、タクシーで帰宅。抗ヒスタミン剤を倍量飲み、ステロイドの軟膏をベタベタ塗って、翌日、蕁麻疹は消退しました。理解が追いつかない私。ただ、パンを想像すると、喉が痒くなる感覚。やっと合点がいきました。「パン! 翌週アレルギー科を受診してみました。特異的吸入系、食物系、軒並み陽性のオンパレード。そこで、状況から推察し、大好物の小麦との別れを決めました。大変「一生分食べ切りました。ありがとうございました!」ビール! 小麦だ!」I g E 検査では、静かに歳月が過ぎ、2010年秋、アレルゲンコンポーネント検査が保険収載されたと知りました。私の『ω5グリアジン』の抗体値は高値でした。素晴らしい検査が開発され、保険収載される。その道のりに思いを馳せました。臨床検査や日本の保険制度のありがたみ、その背景にある多くの方の熱い想い。そんなことを折りに触れ、噛み締め、職業人としてもさまざまな検査に助けられる日々は幸せです。パンの香りも味もいつでも思い出せます。それが今の人生の道標をくれたアレルゲンコンポーネント検査令和5年度第24回一般公募エッセイ福田亜紀子(45歳/東京都)「検査がくれたもの」入賞作品紹介努力賞11■ LABO – 2024.06

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