Labo_No.544
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認知症に関する新しい法律である「認知症基本法」が2023年6月に成立し、2024年1月1日に施行されました。認知症の人が尊厳を保持しつつ、希望を持って暮らすことができるように、さまざまな取り組みを推進していくことを目的としています。認知症に関するこれまでの政策を振り返ると、大きな転換点となったのが、2004年に「痴呆」という呼称から「認知症」へと変わったことです。当時、認知症に対しての誤解や偏見は非常に大きいものでした。それが本人や家族の尊厳を傷つけるだけでなく、早期発見や早期診断を大きく遅らせていたのです。認知症は誰もがなる可能性があること、周囲の適切な対応によって認知症になっても住み慣れた地域で暮らせることなど、認知症に関する正しい知識は、国民全員が知っておくべきことです。そこで2005年には、厚生労働省が「認知症を知り地域をつくる10カ年計画」を開始し、認知症の正しい知識を普及させ、自治体、企業・団体などで支援するシステムの構築、つまり「認知症サポーター」を全国で育成する事業「認知症サポーターキャラバン」をスタートさせます。さらに2015年には「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」が策定され、認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進や認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護などの提供、若年性認知症施策の強化、介護者への支援、認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進といったことが、国家戦略となったのです。そして2024年、「認知症基本法」という法律の施行によって、大きな転換期が訪れています。この法律は正式には「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」とされています。これまでの施策と比べると、認知症の人もそうでない人も支え合いながら生きていくという“共生”という点が強調されています。認知症になったからといって、何もできなくなる、何もわからなくなるわけではありません。日本人に多いアルツハイマー型認知症は、長い年月をかけてゆっくりと進行していくため、生活を工夫したり、適切な治療を受けたりすることでしばらくは自立した生活を送ることもできます。 こうしたことをふまえて、認知症基本法の基本的な理念には「すべての認知症の人が自らの意思によって日常生活及び社会生活を営むことができる」という内容が盛り込まれています。また「すべての認知症の人が、社会の対等な構成員として、地域において安全にかつ安心して自立した日常生活を営むことができる」「自己に直接関係する事項に関して意見を表明する機会及び社会のあらゆる分野における活動に参画する機会の確保を通じてその個性と能力を十分に発揮することができる」という理念も掲げられています。このように認知症基本法では、認    知症の人の尊厳が重視されているのです。さらに国民が認知症に関する正しい理解を深め、地域で認知症の人やその家族を支えていくことも重んじられています。認知症基本法の施策には、国民の理解を促進することや社会参加の機会を確保すること、医療や福祉サービスのこの20年間で認知症への理解が深まりつつある基本的な理念は認知症の人の尊厳を守ること認知症基本計画の策定に不可欠なのが当事者の意見2024.05 – LABO ■12現在600万人以上の日本人が発症していると推計されている認知症。団塊の世代が75歳以上になる2025年には700万人以上、高齢者の5人に1人が認知症になると見込まれています(平成29年高齢社会白書)。認知症がますます誰がなってもおかしくない身近な症状になっていくなか、2024年1月1日には「認知症基本法」が施行されました。目的や施策の内容、注目点について紹介します。Medical Trendメディカル・トレンド新たな法律「認知症基本法」が施行。今後の「認知症基本計画」の策定に注目

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