橋本病では「TgAb」と「TPOAb」の2つの自己抗体が高い確率で陽性になりますが、自己抗体が検出されない場合もあり、診断をむずかしくしています。これらの項目のほかに、血液一般検査で血糖値や腎機能、肝機能などを調べ、尿検査も行います。甲状腺の形、大きさ、内部の血流などを調べます。甲状腺腫瘍の有無を調べることもできます。橋本病では「甲状腺内部のエコーが低下(正常より暗く見える)」「内部のエコーが不均質(暗く見える部分と明るく見える部分がある)」などが、診断の参考になります。必要に応じて「アイソトープ検査」を行うことがあります。これは弱い放射性をもったヨウ素を服用し、甲状腺がヨウ素を取り込む様子を撮影して(シンチグラフィ)、甲状腺の機能や腫瘍の有無を診断する検査です。バセドウ病の場合は、甲状腺が活発にヨウ素を取り込みます。バセドウ病と症状が似ている亜急性甲状腺炎は甲状腺の痛みが鑑別のポイントになりますが、無痛性甲状腺炎は痛みがないため、この検査がバセドウ病との鑑別に役立ちます。放射性ヨウ素の代わりに使用することがある放射性テクネシウムには、検査の所要時間が比較的短いなどのメリットがあります。橋本病が疑われる場合、血液検査で陰性でも、甲状腺に針を刺して細胞を採取し、炎症の状態を顕微鏡で調べると診断できる場合があります。バセドウ病では頻脈や不整脈が起こることがあるので、心電図検査を行うことがあります。また、心臓が働き過ぎて「心不全」を発症することもあるため、胸部X線検査などを行うこともあります。バセドウ病や橋本病と診断された場合は、長期的な診療が必要となります(治療法については7ページの「Q&A」を参照)。前述のとおり、甲状腺腫瘍は良性と悪性に分けられ、その約9割は治療の必要がない良性のものです。悪性の腫瘍は「甲状腺がん」といいます。甲状腺がんには6つのタイプがありますが、その約9割を占める「乳頭がん」は進行が遅く、予後も良好です。しかし、高齢者に多い「未分化がん」は悪性度が非常に高く、進行が速いのが特徴です。また、「悪性リンパ腫」は橋本病に合併して起こることがあり、全身に及ぶと命にかかわることもあります。女性では60~70代に多くみられます。近年、甲状腺がんの患者数は増加していますが、これは超音波検査の精度が上がり、検査が普及したことで、発見率が高くなったことによります。主な検査は、触診、超音波検査、細胞診です(図表5)。良性腫瘍の場合、基本的には経過観察を続けます。腫瘍が大きくなり、圧迫されて息苦しくなったときは、手術で腫瘍を切除します。また、甲状腺の中に袋状の嚢胞ができ、液体がたまってつらい症状が現れた場合は、液体を吸引したり、エタノールを注入して小さくしたりする治療法が行われます。甲状腺がんの治療法については、次の「Q&A」を参照してください。▼超音波(エコー)検査▼アイソトープ検査▼細胞診(穿刺吸引細胞診)▼心電図検査、胸部X線検査など甲状腺腫瘍の9割は良性甲状腺がんも多くは進行が遅い①触診医師が甲状腺を触り、腫れやしこりの有無、大きさ、性状などを調べる。・良性の場合:なめらかで、つるつるしている、軟らかい、指で押すと動く・悪性の場合:でこぼこしている、硬い、指で押しても動かない②超音波検査必須の画像検査。良性か悪性かについてはある程度判断できるが、多くの場合、細胞診が必要となる。・良性の場合:表面がなめらかで形が整っている、周囲との境目がはっきりしている など・悪性の場合:形がでこぼこしている、周囲との境界線がぼやけている、最も多い乳頭がんでは内部に特殊な石灰化が見られる など③細胞診(穿刺吸引細胞診)超音波で甲状腺を見ながら、悪性腫瘍が疑われる場所に針を刺して組織を採取し、顕微鏡で観察する。2024.04 – LABO ■6Column図表5 甲状腺腫瘍の主な検査と診断危険な甲状腺クリーゼ 甲状腺中毒症(主にバセドウ病)の治療を受けていない、または、コントロールが不良な人が何らかの強いストレスを受けたときに、甲状腺ホルモンの作用が過剰になる場合があります。これにより、さまざまな臓器が機能不全に陥り、高熱、高度の頻脈、意識障害などを起こし、死に至ることがあります。これを「甲状腺クリーゼ」といい、死亡率は約10%と高率です。甲状腺の病気の患者さんであれば診断は可能ですが、未治療の場合は診断が困難です。 クリーゼを防ぐためには、バセドウ病の患者さんは自己判断で服薬をやめないことが大切です。また、気になる症状がある場合はバセドウ病を疑い、医療機関で検査を受けることをおすすめします。
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