令和5年度第24回一般公募エッセイ木村咲紀子(39歳/東京都)「検査がくれたもの」入賞作品紹介最優秀賞全国から169編の作品が寄せられました。日衛協広報委員会において厳正に審査し、入賞作品を決定しました。今号では栄えある最優秀作品を紹介します。健康診断の結果を開く時、パンドラの箱のようだと感じる。開けてしまうと災いが出てくるパンドラの箱。検査結果を何も見なければ自分は病気だとは知らないままでいられる。しかし知ってしまえば、自分は病気であると突きつけられてしまう。病気という事実を知った瞬間、絶望の淵に突き落とされたような気分になる。これはまるでパンドラの箱だ。ただ災いを出し切ったパンドラの箱には最後に残ったものがある。それはなんだったか。「エコーで肝臓に何か見つかったのよ」久しぶりに帰った実家で母親が言った。肝臓の数値が上がっていたのでエコー検査をしたところ腫瘍のようなものが見つかり、今度カテーテルによる精密検査で詳しく調べるそうだ。「まぁ、しっかり検査したら安心だよね」でそれを深刻にとらえていなかった。心のどこかできっと大丈夫と思っていたのだろう。家族の中でも丈夫な母親。家族の中で、病気と母親は結びついていなかった。になると聞いた時も父と「明日退院だって」「じゃあ結果は大丈夫だったってことかな」果を聞きに病院に向かった。の三人で検査結果を聞く。先生がこの時の私たちはどこか楽天的検査入院をした母から明日退院そんなことを話しながら検査結診察室に付き添って母と父と私検査結果についての詳しい説明をしてくれる。「結果から述べますと……」この時ですら楽観的に……いや、母親が病気である可能性を私たちは心のどこかで否定していた。「肝臓がんです」検査結果によって導き出された事実。その一言で、一瞬で、私たち家族は絶望の中へと放り投げられたようだった。聞く前とは全く違う暗い感情が胸を占拠した。「はい……」絞り出すように答えた母。返事をした母の声は、明るい母からは聞いたことのない涙を押し殺した悲しい声だった。しかし、あれから5年経った今、母は元気に生きている。あの時見つかったがんは手術をして切除され経過も良好だ。それは検査によってがんが早期に発見できたおかげだ。パンドラの箱に最後に残ったものはなんだったか……それは、希望だ。それは検査も同じ。検査とはその先の未来へ生きる希望を繋ぐものだ。一旦は病気であるという事実に打ちのめされてしまうことがあったとしても、早く見つかれば見つかるほど未来への希望は強く繋がる。病気と疎遠だと思っていた母ががんだったように、病気というのは誰しもに訪れる可能性がある。だから定期的な検査をしっかり受けて、検査によって、よりたくさんの人々が未来へ生きる希望を繋いでいってほしいと私は思う。そして私自身も臨床検査技師として検査に関わって働いている。誰かの生きる希望を繋ぐため迅速で精度の高い検査を日々心がけたい。令和5年度第24回一般公募エッセイは、それはパンドラの箱のような17■ LABO – 2024.01
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