■LABO – 2023.11充実したセカンドキャリアさらなる研究に邁進――ここまでお話をお聞きしていると、トップアスリートとして活躍されていた頃と同じくらいの熱量をもって、研究にも打ち込んでいらっしゃる様子がうかがえます。いえ、それ以上かも(笑)。でも、室伏 こんなに学ぶ機会をいただいて、もう感謝しかありません。特に今回の研究プロジェクトは統括役としてかかわる貴重な体験もさせていただいたので、ほかの研究領域においてもぜひ生かしたいと思っています。――それはアンチ・ドーピング教育ですね。室伏 実は、それをテーマとして書いた博士論文は、「教育経験回数が多いほど知識が高まることを初めて発見した研究」として国際的な学術誌にも掲載され、インパクトファクター(文献引用影響率)のある論文として高く評価していただきました。――それはすごい!室伏 ドーピングはダメだとわかっていても、一度手を染めてしまうと、なかなか脱却できないもの……というのが国際的な見解です。では、どうすれば予防教育ができるのか。いま介入研究として取り組んでいるのは、教育によって得られた知識がどれくらい定着するのかという実験です。すると教育効果は見事なまでにその1ヵ月後にガクンと低下してくる。つまり、一度の教育だけでは一過性で終わることがわかっています。現在は、2回目以降の反応がどのように表れるかというフェーズに入っているところです。――我欲が理性(教育)を上回ってしまう……。室伏 近年、サプリメントに禁止物質が含まれていることによる違反も増加しています。その効果を信じる度合いが強いと、ドーピング行動に移りやすいこともわかってきています。大学生の間で薬物使用が社会問題になっている昨今、私はドーピングもスポーツ界だけの問題ではないという認識を持っているので、それらの予防教育にもぜひ生かしていきたいと思っています。――では、最後に今後の目標について教えてください。室伏 順天堂大学に着任してからのご縁もあって、閉じられていた扇子が開くように、その角度がどんどん広がっていると実感しています。私は人に生かされてチャンスをいただいているのだと。自分一人の力だけではなかなか実らないことも、互いに手に手を取り合えば、不可能を可能にする現実味がより増してくる。これからも感謝の気持ちを忘れず、扇子の面を徐々に広げていって、より多くの人たちに研究によって得られた“知見の風”を送り続けていきたいと思っています。7千葉県印西市にある順天堂大学さくらキャンパス「順天堂大学に着任してから、扇子の角度がどんどん広がっています!」と室伏さん講演活動も積極的に行っている送り続けたいです!研究によって得られた“知見の風”
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