故障の多かった選手時代父・重信氏の背中を目標にじやすい可能性も考えられます。性格的にも勤勉性が高く、責任感も強いことから目標達成に向けて努力を惜しまないタイプの人たちである傾向がうかがえます。――そうした知見を得られたことで、私たちは従来の認識をあらためなければならないということですね。室伏 その通りです。ここで重要なのは、世間一般のイメージとして、痩せている女性のほとんどはただ単に痩せ願望が強いから、あるいは不健康……などのレッテルが貼られがちなこと。実はそうではなくて、痩せ願望がなくても痩せている人はいるし、痩せていても健康な人はたくさんいる。十把ひとからげに物事をみてはいけないということです。本研究の成果としては、同じ痩せた女性でも痩身願望やダイエット経験がある人と、そうでない人への健康に関する情報提供が異なる必要性が示唆されたことになります。ぼんやりしていたものが輪郭としてようやく浮かび上がってきたところでしょうか。――まだ道半ばでしょうか。はい。ただ本研究の結果によって、室伏 各個人に最適化されたスポーツ機会の検討や、適切な栄養摂取のためのアプローチに役立て取り組むことで、女性が年齢を重ねても長く健康で豊かな生活を送ることができるのではと考えています。加えて、今後の低体重女性に関する研究の推進もできると期待しています。とはいえ、私たちの研究にはまだいろいろなエビデンスが不十分で、さらなる研究の深化が求められていると思っています。――今後の課題は何でしょうか。室伏 スティグマ(偏見)です。特に健康問題をテーマとする研究結果は丁寧に発信していかなければ、スティグマによって不当な扱いを受けかねません。一歩間違えると、「痩せていることは悪い」というような風潮に傾いてしまう危険性がありますから。成果が出たからといって短兵急に発信を進めてはならないと肝に銘じています。――ところで、選手時代には故障も少なくなかったとお聞きしています。アテネ以降、引退する前年まで原因室伏 のわからない腰痛症に悩まされていました。競技者として晩年になった頃、ようやく脊椎専門のスポーツドクターにかかる機会を得て、検査によって脊柱管狭窄症だと判明。7年くらいはっきりしなかった症状の原因が、一枚の検査画像で明らかになり、ドクターに「よくこんな状態でやっていたね」と言われたものです。私たちの研究も同様だと思いますが、検査や実験によって根拠を明らかにすることで、人の気持ちをいかに前向きにするか、身をもって体験しました。――検査は道しるべになる。室伏 そうですね。原因がわからないまま、あるいはスポーツ医科学を信じられないまま引退してしまう可能性もあったわけで……。でも、お陰様で健康を取り戻してから引退したので、いまは健やかな日々を送っています(笑)。――お父様である重信氏(中京大学名誉教授)と同じ道を歩まれています。やはりお父様の影響は大きかったのですか?認めるのは悔しいですが、とても大室伏 きいですね(笑)。父子で同じ種目(ハンマー投)にチャレンジするのはよくあることかもしれませんが、「アジアの鉄人」と言われるほど大きな存在だったので、その分、社会的な視線や期待値も含めてプレッシャーが大きかったです。本来は、もっと身体の大きな選手に向いている種目でもあり、体格に見合っていないという点でも苦労しました。――勧められたのですか? らの意思で?父はやってほしそうでしたからね室伏 (笑)。もともと100mを専門としていて、中学時代には12秒8の自己ベストを出したこともありました。でも、短距離種目を究めるには練習についていく体力がなかったこともあって、投げる種目に転向しよう(当初は円盤投)、と。父は喜びましたが、最初の頃はもう反発してばかりで……。でも、私がケガを抱えながらも35歳まで現役を続けられたのは、もっとも身近にいた父の教えがあったからだと思います。それとも自6所属先のミズノでのアテネオリンピック壮行会。重信氏と出席(2004年)重信氏と(小学2年生)2012年9月の引退試合2023.11 – LABO■
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