関 節は消耗品関 節にやさしい「スロトレ」くの種目に適用可能第11回スロートレー二ング関節にやさしく、筋肉に厳しく筋肉は何歳からでも、適切に鍛えれば強く大きくなります。骨も運動に対する適応能力は高く維持されています。骨に強い力が加わる運動刺激を与えれば、骨密度は何歳からでも上がります。しかし、こういった話は、残念ながら関節には当てはまりません。関節内には血管がほとんど走って 多 いないため新陳代謝が悪く、回復能力に乏しいからです。運動で関節を酷使しすぎると回復が追いつかなくなります。運動をよくしていて筋力がどんなに強くても、膝や股関節が痛くて歩けなければ、それもロコモティブシンドロームです。 「関節は消耗品」。いたわりながら鍛えなければいけません。体をよく鍛えている人ほど、この点によく留意しておく必要があります。自分だけは大丈夫、と思っていませんか?重いものを上げ下げする筋トレは、関節への負担が大きな運動です。300㎏以上でのスクワットなど、高負荷筋トレの実施で知られるボディビルの元世界チャンピオンのロニー・コールマンは、手術を受けて両脚とも人工股関節です。これは極端な例ですが、長年の高負荷筋トレによるダメージの蓄積で、関節にトラブルを抱えている筋トレ愛好家はたくさんいます。恥ずかしながら、私もその1人です。の動作で力を抜く局面をつくらずに行うスロートレーニング、通称「スロトレ」は、関節への負担を軽減できる筋トレ法の1つです。て、2~3秒かけてゆっくり下ろします。腕立て伏せなら肘を伸ばし切らず、スクワットなら膝を伸ばし切らずに動作をすることで、力を入れっぱなしの動作を繰り返します。パンプするスロートレーニングは、力を抜かずに動作し続けるのがポイントです。ゆっくり動くので、動作の加減速が少なく筋肉に力がかかり続けます。筋肉は力を入れると内圧が上がり、血管を押しつぶすので、軽めの負荷を用いて、ゆっくりめ2~3秒ほどかけてゆっくり上げ持続的な筋力発揮で筋肉が激しく持続的な力発揮は筋肉の血流を制限します。血流が不十分になると、酸素不足の状態になり、乳酸がたくさん発生して筋肉が水膨れではれ上がります。スローでスクワットをすると腿がパンパンに張って、パンプアップするのがわかります。少し複雑なメカニズムですが、ベルトで縛って血流を制限する加圧トレーニングと似たような状態になっていると考えられています。スロートレーニングは比較的軽負荷で筋肉に強い刺激を与えられます。バーベルを持たずに自体重での運動でも、十分な刺激を筋肉に与えられます。関節にやさしく、筋肉に厳しい筋トレ法といえます。スロートレーニングは、力が抜ける局面をつくらずにゆっくりめに動作すれば、ほとんどすべての筋トレ種目に適用できます。スクワットや腕立て伏せでは、前述のように、膝や肘を伸ばし切らず、腹筋のクランチなら頭を下ろし切らず、という形で行えます。スロートレーニングで、関節をいたわりながら筋肉をしっかりと鍛えてください。14スロースクワット膝を伸ばして立ち上がり切らずに、ゆっくりめの動作で力を抜かずにしゃがんで立ち上がります。空気椅子に座り続けながらスクワットを行うイメージです。2023.11 – LABO ■令和医新谷本道哉(たにもと・みちや)運動生理学者、筋生理学者1972年、静岡県静岡市生まれ。大阪大学工学部卒、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。順天堂大学スポーツ健康科学部専任准教授。『みんなで筋肉体操』(NHK)の出演者として知られる。著書に『筋トレまるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『スポーツ科学の教科書――強くなる・うまくなる近道』(岩波書店)、『スポーツがうまくなる!! 身体の使い方、鍛え方』(マイナビ)など多数。
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