「地域医療構想」「医師偏在対策」との三位一体医師だけに認められている医療行為の一部を、ほかの医療職に移管することで、医師の勤務時間の削減の有効な手立てになると考えられています。受け手となる医療職は看護師や助産師にとどまらず、薬剤師、臨床検査技師など多岐にわたります。コロナワクチンの接種においては、日本では医師のほか歯科医や臨床検査技師が接種を担当しました。海外では薬剤師や、トレーニングを受けたボランティアが接種を受け持ったりするケースもみられました。もちろん医師にだけ認められる医療行為の範囲は慎重に検討するべきですが、タスクシフトのイメージは、それを思い出すとわかりやすいでしょう。医師の時間外労働時間の上限の制度化間近ということで、「医師・医療従事者の働き方改革」に注目が集まっています。しかし、政府は、日本の高齢者数がピークとなる一方、医療・介護の担い手が急減する「2040年問題」を視野に、「地域医療構想」「医師偏在対策」「医師・医療従事者の働き方改革」を「三位一体」で推進することを目指しています。まず、基本となる「地域医療構想」によって、2次医療圏(救急医療を含む一般的な入院治療が完結するように設定した区域)ごとの病床数と病床機能(病院機能)が見直され、各医療機関の医師・医療従事者の配置人数が固まります。それを基に職種ごとに「医師・医療従事者の働き方改革」を進めることとしています。地域医療と、医師の健康や労働意欲を維持する環境づくりの両立に注目していきましょう。0% 20% 40% 60% 80% 100%授業の準備に必要な時間の確保ができなくなり、教育の質の低下が生じる学生への個別指導時間の確保ができなくなり教育の質の低下が生じる臨床実習で必要な時間の確保ができなくなり、臨床教育の質の低下が生じる研究時間の確保ができなくなり、研究成果が減少するその他84.0%81.5%88.9%90.1%18.5%図表3 労働時間短縮により予想される教育・研究への影響文部科学省 大学病院における医師の働き方に関する調査研究報告書(概要)★参考資料厚生労働省『医師の働き方改革について』、第1回医師の働き方改革に関する検討会『医師の勤務実態等について』、第31回地域医療構想に関するワーキンググループ『良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について』、文部科学省『大学病院における医師の働き方に関する調査研究報告書 (概要)』、日本看護協会『看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアに関するガイドライン及び活用ガイド』看護師から医療クラークまで注目されるタスクシフト・タスクシェア■看護師へのタスクシフト 一連のタスクシフト・シェアの議論のなかでも医師の負担軽減に大きな効果があると期待されているのが、特定行為研修を修了した看護師の配置です。この研修を修了すると、人工呼吸器からの離脱や気管カニューレの交換、薬剤の投与量の調節など特定行為に指定された38の医行為を手順書に従って実施できるようになります。 特定行為研修は、医師の働き方改革の議論が始まる以前の2015年から始まりました。2025年までに10万人以上を養成する計画でしたが、2022年3月の時点で修了者は5000人弱と、当初の見込みを大きく下まわっています。■薬剤師へのタスクシフト 病院に勤務する薬剤師には、その専門性を活かし薬学管理全般を担うことが求められています。調剤室で薬の監査・調剤を行うだけでなく、病室を訪れて投薬の効果や副作用を把握し、医師に処方の見直しを提案することで、投薬の効果と安全性を高めることが期待されています。副次的な効果として減薬により薬剤費削減につながる可能性もあります。 しかし、病院よりも薬局のほうが、一般的に待遇がよいことなどから、病院勤務を希望する薬剤師が少ないのが課題です。■診療放射線技師、臨床検査技師、 臨床工学技士へのタスクシフト 法改正により、2021年10月から診療放射線技師・臨床検査技師・臨床工学技士の業務範囲が拡大され、それぞれの専門業務をよりスムーズに実施できるようになりました。 共通するのは、静脈路の確保とそれに付随する業務(薬剤の投与・抜針・止血)です。これが可能になったことで、MRI検査や造影検査、採血、生命維持管理装置の操作などの一連の業務プロセスをより自律的に行えるようになりました。■救急救命士へのタスクシフト 法改正により、2021年10月から救急救命士の業務範囲が拡大され、これまで医療機関に搬送されるまでの間に限定されていた救急救命措置が、救急外来でも実施できるようになりました。 これにより、休日や夜間のオンコール要員として、病院や診療所でも救急救命士を配置する事例が出てきています。ほかにも看護師の業務をサポートしたり、医師の訪問診療に同行したりと活躍の場が増えることが期待されます。 なお、オンコール要員とは、病院などで緊急を要する際、すぐに対応ができるように待機する勤務形態のこと。緊急時に駆けつけられるように、基本的には自宅などの職場外で待機します。■助産師へのタスクシフト 産科において、助産師外来や院内助産の設置が推奨されています。助産師外来とは助産師が妊婦健診や保健指導を行うこと、院内助産とは助産師が中心となって分■管理を行うことを指します。いずれも対象は、妊娠経過に異常のない妊婦で、リスクの高いお産は医師、リスクの低いお産は助産師とケアの分担が進められています。■医師事務作業補助者へのタスクシフト 電子カルテや検査オーダーの入力を代行したり、診断書や意見書のドラフトを作成したりする医師事務作業補助者(医療クラーク)の配置も医師の労働時間削減に効果が期待されています。 医師の指示で事務作業の補助を行う専従の者を「医師事務作業補助者」といい、「医師事務作業補助体制加算」の対象になります。2023.07 – LABO ■14Medical Trendメディカル・トレンド
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