Labo_534
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仕事が多く、トイレを我慢することが度々だった。突然の下腹痛でトイレに行くたびに激痛が走る。泌尿器内科をすぐ受診した。尿検査と腹部触診の結果、膀胱炎の可能性があるとのことだった。だが女性の場合、婦人科疾患も疑われるので再受診するように勧められた。紹介された婦人科を受診すると、久しぶりの内診があった。緊張した様子の私に医師が、「最近、婦人科検診受けてますか?」とたずねた。恥ずかしながら、3人の子育てと仕事に忙殺されて、なかった。医師は淡々と、「それでは念のため細胞検診しておきましょう」と、細胞を採取した。電話があった。「細胞診の結果、急いでお伝えしたいことがあります」すぐに病院へ駆けつけた。結果は「子宮頸がんの前がん病変、高度異形成から上皮内がんの疑いがある」との診断だった。るようだった。「がん」というだけでもう「死」しか見えない。説明の途中から、頭の中が真っ白になっていくのがわかる。医師は冷静なもので、すぐ次の道を示してくれた。「総合病院の婦人科外科医で、優秀な医師を紹介します。紹介状を書くのですぐに行ってください」えがあった。なんと20年前、長男数日後、婦人科の医師から直接嫌な予感がした。電話を切ってまるで他人のことを話されてい紹介された医師の名前に聞き覚の出産時に取り上げてくれた若き医師だったのだ。頭の中は白からカラーになっていくような気がした。当時30代だった医師の、手際よい産後処置をよく覚えている。この先生なら絶対に大丈夫。子どもを育んだ子宮の尊さも、悪さをするがんの恐ろしさも知っている人なんだと、会わないうちから信頼の気持ちがわいてきた。受診した婦人科外来で、出産時の件を話すと、医師の顔がほころんだ。「あの頃は、まだいろいろな病院をまわっている頃で、修行中でした。その後大学病院で、婦人科がんの研究と外科手術の経験を積みましてね」手術の腕を見込まれて、この総合病院の婦人科長として赴任されたのだった。私は改めて運命の巡り合わせを感じ、全幅の信頼を寄せて手術をお願いした。「子宮全摘術」であったが開腹しない方法での手術だった。そのため術後の治癒も早く、10日間で退院できた。手術以来17年。私は毎年婦人科検診を受けている。細胞診とエコーでの卵巣診断。「異常なし」と通知が来るたびに、3人の医師のことを思い出す。内科医師から細胞診の婦人科医師、そして手術医師への繋がりがなかったら、今の私はいなかったかもしれない。1人のがん患者も見逃さない、という医師たちの「がん撲滅」への連携プレーに敬服する。今後は3人の医師の慧眼に感謝しながら、いただいた「寿命」を「健康に」延ばしていきたいと思う。3人の医師に感謝令和4年度第23回一般公募エッセイ佐久間淑江(65歳/東京都)「検査がくれたもの」入賞作品紹介努力賞10年以上、婦人科検診を受けてこ48歳の時だった。職場では立ち11■ LABO – 2023.07

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