血液学的検査を受けて、いくつもの検査項目の結果を聞いたとき、もっとも気になるのは、それらの結果が正常なのか異常なのかということではないでしょうか。
この「正常」と「異常」の判断の“ものさし”となるのが、検査項目ごとの基準範囲です。ただ、自分の検査結果と基準範囲を見比べるときには、その値や範囲にとらわれすぎることなく、あくまでも一般的な目安だと考えるほうがいいと思います。検査結果は、健康判断の“ものさし”と考えることが大切で、ポイントになるのは自分自身の健康時の値を知ることです。1カ月ごとに3回以上測定すると、求めることができます。
一般的には、正常値を決めるにあたっては、各施設で健康な人を多数集め、検査し、統計処理後に平均値を含む95パーセントの範囲に含まれる人の値としています。ただし、この値については、正常の基準や定義がまだまだあいまいなうえに、健康な人が正常である保証もありません。また、健康な人でも人種や年齢、性別、生活習慣、環境など、数多くの要因によって、その値が変動する可能性があります。
つまり、正常値の「正常」という言葉そのものに問題の根源があるようです。1992年、米国臨床検査標準化委員会(NCCLS)が、「基準値」「基準範囲」という用語を日本語訳して、明確に定義して用いたことから、わが国をはじめ世界中にこの考え方が普及しました。ちなみに1997年の医師国家試験出題基準でも、正常値にかわり基準範囲が用いられています。
基準値は、厳密には性、年齢、生活習慣、検体採取条件を同じくする健康な基準固体から得られた計測値であり、基準範囲は基準固体の計測値の中央値を含む95パーセントが含まれる範囲のことです。一見、正常値の設定とあまり違いがないように思われますが、表に示したような用語と基準範囲を求めるための条件、手順を明確に規定した点が異なります。
基準値・基準範囲について
1)基準個体
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基準範囲を求めるための個人。健康の状態が、適切に定義された基準に則って選ばれた個体。
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2)基準母集団
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すべての基準個体を含む集団。したがって、この母集団は性、年齢、飲酒、喫煙習慣、投薬などの健康に関する生活習慣が厳密に問診などで調査された集団である。
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3)基準標本群
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基準母集団の中で、性、年齢、生活習慣などで厳密に分類された基準個体の集合であり、この標本群を母集団として基準範囲が計算される。
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4)基準値
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基準標本群を基にして、それを構成する基準個体から得られた基準範囲を求める検査項目の計測値。
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5)基準分布
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基準標本群の基準値の分布。
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6)基準限界値
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基準範囲の上限値または下限値。
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7)基準範囲
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基準分布を基にして、基準個体の計測値の中央値を含む95%が含まれる範囲である。統計学的に信頼性のあるn数から求めたものである。
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8)観察値
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日常の検査で観察される個体の計測値。
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(注)菅野剛史:NCCLS-C28Aの内容概説臨床検査40:1379-1382より引用